
2025年6月2日
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原口 雄一郎
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 万博推進プロジェクト
「ノモの国」総合プロデューサー
2004年に入社し、eネット事業本部でネット家電サービスの企画を担当。その後、テレビ事業部で海外市販マーケティングやグローバルブランド戦略立案に携わる。ブランド部門でのCSRコミュニケーション推進業務を経て、2014年に東京オリンピック・パラリンピック推進本部へ異動し、アクセシビリティ分野における新規事業の創出をリード。2022年より現職。
私が万博に携わり始めてから早くも約3年。何もないところから、さまざまな方々の力を結集し、今、皆さまにお届けできる形に育てることができました。ようやくこの瞬間に立ち会えると思うと、非常に感慨深いです。
「ノモの国」は、「解き放て。こころと からだと じぶんと せかい。」というコンセプトのもと、子どもたちをメインターゲットとした体験型パビリオンです。ひとの営みと自然の営みの循環が作用し合ってひとめぐりする「720度の循環」の中で、自らの感性に気付き、想像力を解き放てば、未来が変わる―そんな希望を子どもたちに感じてもらいたいと願っています。
「ノモの国」で最も大切にしているのは、自由に素直な心で楽しんでほしいということです。ルールに縛られる必要はありません。思い切り走り回っても、寝転んでも、ジャンプしてもかまわない。さまざまなものに触れ、心ゆくまで遊び、体験することで、自分自身の可能性に気付くことができる、そんな体験になっています。
総合プロデューサーという役割は、一般的には自らの哲学やコンセプトを形にすることから始まります。しかし、パナソニックグループには、創業者・松下幸之助が遺した哲学という拠り所があります。さらに、豊富な技術力や洗練されたデザイン、そして共創を推進するパートナーたちが集まる、非常に恵まれた環境にあります。私の主な役割は、松下幸之助の思いと社内の多彩な技術やアイデアを組み合わせ、一つのストーリーとして具現化することでした。
展示において最も苦労したのは、松下幸之助の哲学をどのように表現し、生かすかという点です。ヒントになったのは、教育支援サービスの事業開発に取り組む関係者との対話でした。一人ひとりの強みや学び方の違いが、学びの質に大きな影響を与える。例えば、自分で手を動かしながら集中して作っていくのが好きなタイプの人もいますし、頭の中で考えたり、みんなでしゃべったりしながら物事を進める人もいます。それぞれタイプに合わせた教え方、考え方、学び方を多大なアンケートなどを分析した上で提案するサービスです。こうした分析の部分に、われわれが長年人の生活やくらしに寄り添う中で培ってきた「ひとの理解」研究に基づく表情・行動解析の技術を掛け合わせることで、子どもたちの個性や特性を分析することができるのではないかと気付いたのです。そうして、「ノモの国」を子どもたちが遊びながら進んでいくと、その行動に応じてそれぞれ異なるメッセージが浮かび上がるというストーリーが生まれました。これは日々子どもたちと向き合ってきた仲間のアイデアがあったからこそ実現したプログラムで、万博専任のプロジェクトメンバーだけでは生み出せなかった発想です。くらしに長年向き合ってきた私たちの強み、パナソニックらしさを最大限に活用できました。
さらに、活動の中で「万博に関わりたい。こんなことを試してみたい」という多くの声をいただきました。1,000人近くの方々のアイデアの中で、実際に生かされているのは1~2割程度。万博が閉幕するまでの期間中、イベントを実施するなどより多くの声を形にしていくことを目指しています。
取り組みをより楽しく伝えるため、隠しコンテンツとして、社員がデザインした「マテモン」というキャラクターをパビリオンの外周に。
資源循環は、パナソニックグループの多くの人々の熱い思いが詰まっている取り組みです。パナソニックには、家電をリサイクルする中で、仲間たちが培ってきた仕組みがあり、この仕組みを最大限に活用しています。一見、木材を使用した方がエコな感じがするかもしれませんが、半年間という短いサイクルで使用され、また別の形に変わる金属の可能性を追求することがわれわれの強みだと考えました。パビリオンを支える柱や梁の約98%に家電から回収した鉄スクラップを活用。パビリオン体験のさまざまな電気を使った仕掛けを支えている幹線ケーブルに、使用済み家電のプリント基板から取り出した銅を使っています。まるで家電から生まれ変わったかのようなパビリオンを実現しています。
また、未来の社会に向けて次世代に残せるレガシーとは何かを問いかけながら、多くのパートナーともコラボレーションしてきました。例えば、NTTとの共創の取り組みとして、水素パイプライン実証を行っています。NTTパビリオンが太陽光発電等のCO2を排出しない電力で作った水素を、地中のパイプラインを通じて、パナソニックグループのパビリオンに設置した純水素型燃料電池に送り、日没後のライトアップの電力に使用します。万博の場で半年間かけて実証し、水素社会実現への貢献に向けた仕掛けとなっています。
「ノモの国」点灯式で。学生や子どもたちと作ってきた照明演出を開幕前に子どもたちとその家族へお披露目。
私は万博の会場は、リアルな反応によって評価される場であると考えています。子どもたちがどのように感じ、どんな評価を下すのか、その声をしっかりと意識しながら半年間運営していきたいと思います。パビリオンを通して、子どもたちが自分の内に秘めた可能性に気付き、未来に向かって一歩を踏み出すきっかけを提供できれば、これ以上の喜びはありません。
記事の内容は発表時のものです。
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